2014年12月にトヨタの燃料電池車MIRAIが発売され、テレビなどで水素社会の到来が話題になりました。しかし、その後、なかなか普及が進んでいないのが現状です。
そんな中、2020年10月に行われた管総理の所信表明演説で宣言された「カーボンニュートラル」を2050年に達成するために再び水素社会が注目を浴びています。
カーボンニュートラルを達成するために経産省がグリーン成長戦略を発表し、次の3つが鍵となる技術として紹介されています。
- 水素
-
再生可能エネルギー
- 蓄電池を含む送電インフラ
なお、グリーン成長戦略の概要については下記を読んで下さいね。↓↓↓
この記事では、このうちの「水素」に関する技術に関してどのような課題があるのかを論じていきます。なるべく、誰でも理解できるように分かりやすく説明しているので、最後まで読んでいただければと思います。
水素社会のイメージ
先に述べましたが、水素社会で描かれる未来として、トヨタ自動車や本田技研が発売している燃料電池自動車でしょう。特にトヨタ自動車のMIRAI(ミライ)は、2021年の箱根駅伝の先導車として使われていたので、知っている方も多いのではないでしょうか。また、意外に知られていないのは、ガス会社が住宅に提供しているエネファームです。これも燃料電池を用いています。
水素社会の鍵となる燃料電池とは?
そもそもこの燃料電池はどういうものか分からないという方も多いでしょう。燃料電池は水素ガスをゆっくり燃やして発電します。イメージは、小学校の水の電気分解をした後、試験管にたまったガスに火を近づけると、「ぽんっ!」って音がしたと思います。それが水素の爆発で、この爆発を起こさずにゆっくり燃やして発電しているのが燃料電池です。
なお、化石燃料を燃やすと主に二酸化炭素と水になりますが、水素は燃えても水しかでません。そのため、水素社会が実現できれば、二酸化炭素を出さずに発電するのでクリーンなエネルギーであり、カーボンニュートラルに近づけることができるということです。
水素社会実現のための課題
そんな水素社会を実現するための課題は、次の3点でしょう。
- 水素の製造方法
- 水素の供給網の整備
- 水素の使用方法のコストダウン
それでは、その課題について、それぞれ詳しく説明しましょう。
水素の製造方法
ここは、日本がまだ優位性を持っている化学やプラント構築といった得意とする技術分野にあると私は思っています。そのため、日本企業が主導権を持って開発を進めていって欲しいです。
水素の製造方法で解決すべき課題は、次の2つあります。
- 再生可能エネルギーで作る方式の確立
- 製造コストが高い
再生可能エネルギーで作る方式の確立
先に述べたエネファームは、燃料電池を使用していますが、問題は家庭に来ている都市ガス(メタンガス)を分解して水素を作り、その水素で発電している点です。つまり、燃料電池は確かに水しか出さないのですが、メタンガスを分解して水素ガスを作っている時点で、「二酸化炭素」を排出してしまっているのです。
つまり、今の水素ガスの製造方法は、基本、メタンガスなどの化石燃料から作っているのが現状です。では、どうすればいいのか。この解決策は、小学校の化学の実験でおなじみの水の電気分解により、水素を作ることです。電気で作っても、火力発電の電気だったら意味ないんじゃないと思った方も多いでしょう。
当然、ここでの電気は、風力発電や太陽電池発電などの再生可能エネルギーで作った電気です。欧州では、すでにそのスタートを切っており、2030年までに再生可能エネルギーで1000万トンの水素を製造できるようにするそうです。一方で、日本は作り方を明示せずに30万トンなので、その差は歴然です。
つまり、水素製造でもキーは「再生可能エネルギー」ということですね。
製造コストが高い
水素エネルギーはまだまだ製造コストが高いです。2019年と少し古いデータですが、化石燃料から作る方法でも100円/N㎥程度で、現状の火力発電と同等のコストとなる20円/N㎥と比べて、5倍します。(参照:水素・燃料電池戦略ロードマップの達成に向けた対応状況 資源エネルギー庁)化石燃料を使って水素を作り、かつコストが高くなるなら、そのまま火力発電しておけばいいやんってなりますよね。。。
では、再生可能エネルギーで作る場合はどうなのでしょうか。再生可能エネルギーの電気と使って水の電気分解により、水素を作る場合、「水電解装置」(水を電気分解して水素を作る装置)が必要となります。実は、この「水電解装置」の設備費用も高価です。装置が高価なので、現状は、火力発電と比べても採算がとれていないと思われます。
では、どのぐらい採算がとれていないのでしょうか。実は再生可能エネルギーを使って水素ガスを製造するコストの試算は、どこも開示していないです。例えば、先に示した資源エネルギー庁の資料内にはこの装置の価格の提示はありますが、この装置を使って再生可能エネルギーの電力を用いたときにどのくらいの製造コストになるかは試算は乗っていません。私の方でも計算してみようと思いましたが、このデータからは試算できそうにもありません。
つまり、試算を乗せていないこと自体からうがった見方ですが、思っている上に製造コストが高いのかあるいは他の思惑があるのかが気になります。現実はどのくらいになるのか気になるところですね。
水素の供給網の整備
次の課題が、水素の供給網でしょう。どうやって、安全に供給し保管するかが課題です。水素は、とても「危ない」ものです。いやいや、ガソリンも都市ガスも危ないやんって思うもしれません。当然、これらも危ないのですが、ガソリンや都市ガスと比べると爆発の威力が大きく爆発しやすい性質を持っています。そのため、取り扱いには注意が必要となるので、供給や保管については、ガソリンはもちろん都市ガス以上に注意が必要です。
また、もし燃料電池車に切り替えるならば、既存のガソリンスタンドを水素スタンドに切り替えていく必要があります。そのコストもバカになりませんし、一気に整備することも難しいでしょう。
さらに家庭用燃料電池を活用するならば、今の都市ガスで使っているガス管を水素用に切り替えが必要になります。ここでも新たなインフラ整備が必要になってきます。
このように供給網の整備を加速するにはコスト面やめんどくささから、国として明確に水素社会に変革するんだという強い意志と民間会社の意欲がないと、インフラ整備は進んでいかなそうです。ここは、どこがファーストペンギンになるかでしょうか。日本にそこまで意欲的な経営者がいるんかなあ。。。どうしても、既存者利益にとらわれているイメージしかないので。
水素で発電する方法のコストダウン
次に水素で発電する方法のコストダウンです。まだまだ、燃料電池装置自体は高いです。また、発電以外に製鉄にも水素を使おうとしていますが、これはそもそも製造プロセスとして確立していません。なので、コストはプライスレスの状態です。
ただ、この課題は他の2つと比べて、私は心配していません。水素社会が決定的となれば、大量製造によるコストダウンや技術革新ですぐに解決されると思います。
まとめ
水素社会の実現に向けて、まだまだ課題は山積み。ただ、課題が多いと言うことはビジネスチャンスが転がっているということです。特に水素の製造方法に関しては、世界をリードできる技術力があると私は思っていますので、ぜひ日本の研究者の方々には頑張って欲しいと思います。
水素の供給網は、インフラ整備と生活スタイルの変更が伴うので、正直、政府の心づもり次第でしょうね。そこまでやりきってやるという意思のある政治家が出てくることに期待したいです。
以上、水素社会の課題について、述べさせていただきました。興味を持たれた方はぜひ読者登録をよろしくお願いいたします。