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【核融合炉】は放射性物質を出さないって本当?

原子力発電所

最初にお断りしておきますが、今回は、少しセンシティブなテーマの設定かもしれません。「原子力発電」あるいは「核融合炉」に賛成とか反対とかの意見表明ではなく、「技術」の観点で書いていることを踏まえて、お読みください。

 

なぜ、この記事を書こうと思ったのは、下記のヤフーニュースのコメント欄を見てからです。コメント欄には、核融合炉は放射性物質を出さないし、原子力発電と違い暴発の危険がないから安全、だからこの記事は間違っているというようなコメントが並んでいました。

 

 私はこのコメントに技術者の観点から違和感を覚えたので、記事にしてみようと思った次第です。

核融合炉とは

そもそも核融合炉って何?原子力発電と似たものなの?って思う方もおられますよね。

 

そのイメージは、「核」=原子爆弾というイメージからではないでしょうか。この原子爆弾は、ウランやプルトニウムが「核分裂」する際に大きなエネルギーを発生するのを利用しています。現在では、原子力発電も同じ原理です。

 

しかし、今ある」原子力発電と核融合炉は、根本から違います。原子力発電所はウランなどを核分裂させるときに出る熱エネルギーにより、水蒸気を蒸発させ、ダービン(風車みたいなもの)を回して発電させています。一方、核融合炉は、原子力発電とは逆で「核を融合」する際に発生する熱エネルギーを利用して電気を作っています。

 

核分裂と核融合の違いは言葉のままなのですが、

  • 核分裂:1つの原子が2つの原子に分かれる
  • 核融合:2つの原子が合体して1つの原子になる

です。

 

ちょっと理科に詳しい方は、原子は物体を分割したときの最小単位って習いませんでしたか?それが分裂したり融合したりおかしいなと思うかもしれませんが、あくまで「原子」の定義は便宜上できたものなので、実際はもっと小さく分けることができるとだけ、この機会に覚えてもらえるといいです。

 

そして、ポイントは、核分裂と核融合では、取り出せる重量あたりのエネルギー量が違い、核融合の方がかなり大きく、核融合反応の一番、分かりやすい事例は我々の頭上に輝く太陽です。つまり、少しの燃料でたくさんの電気を作ることができることから、研究者はそこにメリットを感じて実用化できるように研究を日夜進めています。

 

安全性は?

実は核融合反応は、勝手に反応が止まるので、安全性が高いと言えます。ただし、発電所にしたときに安全なのかは、今はだれも断言できないと私は思います。

 

核融合炉は反応が勝手に止まる

エネルギーが大きいと原子力発電と同じく、制御できずに事故につながることがあるのではと思う方もおられますよね?

 

たしかに原子力発電で用いられている核分裂反応は、勝手に反応が進むので、制御が難しいです。その反応を制御するためにさまざま工夫をしているのですが、福島の原子力発電所の事故では、その制御ができなくなり事故につながりました。

 

一方で、核融合は核分裂と違い、「核融合」という反応を起こすことがとても難しく、そもそも反応が起きづらいため、反応を簡単に止めることができます。これは核融合を起こすためには大きなエネルギー源が必要となるためです。つまり、核融合反応を止めたければ、エネルギーの供給を止めるだけで勝手に止まってしまいます。

 

ただし、この核融合反応が起こりづらい点が核融合炉の実現の大きなハードルになっています。反応が起きにくいので、反応を継続しにくく、発電のような定常的に稼働が必要な場合は、いくつも工夫が必要となるからです。

 

核融合炉は発電所として安全なのか

先に述べたとおり、反応自体は制御しやすいことから、核分裂のような暴走が起こらないため、核融合が安全性が高いのは間違いありません。しかし、「発電所」にしたときに絶対に安全かはまた別の話です

 

なぜなら、文部科学省のホームページにあるとおり、まだ発電所の形が図面ですら固まっていないし、そもそも核融合炉の肝となる「核融合反応」自体をどう起こすかが定まっていない状況。そこが固まっていない状態では、絶対に安全かどうかの検証はどんな天才でもできるわけないのですから。

 

そのため、仕組み自体の安全性の確認は、これから研究者が形作ってからになるでしょう。

 

核融合は放射性物質を出す?

 次に確認する点は放射性物質の有無に関して、見ていきましょう。ヤフーのコメント欄では、放射性物質を出さないから安全と言われていましたが、私が感じた一番の違和感は、ここです。

 

まず、原子力発電で使う核分裂反応では、プルトニウムなどの放射性物質ができるため、核物質の処理方法が課題になります。日本でも原子力発電所から出た核燃料の処理方法をどうするかが現状は宙に浮いたままになっています。

 

一方、核融合反応の結果できるのは風船などで使われるヘリウムのみで、これは放射性物質ではありません。しかし、実は核融合反応以外の点で放射性物質を出しています。

 

どんなものかは以下で解説していきます。

 

中性子線による汚染

現在の核融合炉では、「中性子」を用いて核融合反応を起こす仕組みが有力です。この中性子は、いわゆる放射線です。この放射線を浴びれば、当然、放射性物質になります。つまり、中性子を浴びる核融合炉の内部は放射能に汚染されるということです。

 

その点は原子力発電と同じなので、建屋の一部が汚染されるだけだったら、解体するまでは大きな問題にならず、作って数十年はそこまでたくさんの放射線物質で汚染された廃棄物がでません。

 

しかし、実は核融合炉では、数ヶ月単位で内部の部品を交換する必要があります。これは、核融合炉に用いる中性子はエネルギーが大きいことから、融合炉内の材料が劣化しやすいために交換が頻繁に必要になるためです。この点は、ノーベル物理学賞を取った小柴教授も朝日新聞の記事で指摘しています。

 

しかも、その量が多いため、たくさんの放射性物質に汚染された廃棄物が出てします。つまり、燃料自体はクルーンでも内部の部品交換による廃棄物を含めてみれば、原子力発電所よりもたくさんの放射性物質ができてしまう可能性があることが大きな問題です。

 

ただ、この点はあくまで現時点の話です。先も言ったとおり、まだ発電所自体が設計されていない段階であり、実用化の時は部品点数を減らしたり、劣化しにくい材料が開発されて改善できる可能性もあります。

 

トリチウムを使う

次にトリチウムの問題が核融合炉では出てきます。トリチウムが何かですが、福島の原子力発電所の事故で、トリチウムを含んだ水を海に流すかどうかで話題になっていますよね?このトリチウムは放射性物質です。

 

そして、核融合炉ではこのトリチウムを燃料として使います。そのため、ヤフーコメントで放射性物質は使っていないはそもそも間違いです。ただし、トリチウムは原子力発電の燃料となるウランなどと違い毒性はかなり低いです。

 

まとめ

核融合炉は、理論面では核融合は原子力と比べて安全という面は正しいです。

 

また、核融合技術は制御できれば確かに夢のエネルギーであるのは間違いありませんし、使えない技術と判断できる段階ではないので、技術開発をする意義は大いにあると私は思います。

 

ただし、理論や夢だけでは、現実の発電所はできません。それを実現することを考えると他で問題が出てくるケースもあるでしょう。この出てきた問題にしっかりと開発者が向き合ってほしいです。そして、問題をクリアできれば実用化し、できなければやめるという正常な判断をすることを望みます。

 

原子力発電のように「絶対」安全とうたいながら「想定外」がある事態だけは、必ず避けてね。。。