管理職の昇進・昇格試験を通過するためには、一次試験で実施される人材アセスメント試験で良い結果を得なければなりません。この人材アセスメント試験は次の4つの科目で行われることが多いです。
- インバスケット試験
- グループディスカッション(グループ討議)
- 面接演習(面談演習)
- 分析演習(方針立案)
この記事ではそれぞれの特徴の説明は割愛しますが、普段の会議からイメージしやすいことから、多くの人がこの中で一番、対策しやすそうな印象を受けるのは、グループディスカッションではないでしょうか。また、就活で経験ずみな方も多いと思います。実際、グループ討議の対策として、就活の対策本を参考にしようと考えた方もおられるでしょう。
しかし、管理職の昇格・昇進試験で行うグループディスカッションでは、就活のときと採点者が見ているポイントが変わっていることに気づかずに臨んでしまうと、良い結果を得ることはできません。
今回は、皆さんに昇格・昇進試験で実施するグループ討議はどのようなものなのか、どうやって攻略すればよいのかについて、解説していきますので、最後まで読んでいただければと思います。
なお、そもそも昇進試験はどのようなものなのか、人材アセスメントはどのようなものなかを知りたいと思った方はまずは以下の記事を読んでいただいたほうがよいかと思いますので、ぜひ参照してください。
昇格・昇進試験で行われるグループディスカッションとは
グループ討議とも呼ばれるグループディスカッションは、その名前のとおり、複数の人が1つのテーマについて30分~1時間程度で議論します。なお、試験によっては、グループ討議を実施したあとに代表者が討議の内容や導き出した結論をまとめたうえで試験官の前で発表するケースもあります。
グループディスカッションの形式
試験の形式を簡単にまとめると以下とおりです。
- 討議メンバー:受験者のみの4~8名
- 討議の題目:試験官より与えられる(自身で決めるわけではない)
- 時間:60~90分程度(準備パートを含む)
なお、就活時はリーダーや初期などの役割分担を最初に行うように誘導されるケースが多いのですが、管理職の昇進試験では役割分担することはありません。
これは役割を固定してしまうと、例えばリーダーとなった人は書記の人と比べてマネージメント能力など人事アセスメントで評価される多くの採点科目で優位に立ってしまいますよね。つまり、役割を固定しないのは、人事アセスメント試験の目的となっている個人の能力を発揮しにくくなることを防ぐためです。
また、討議の様子は試験官が採点のために横で見ていますが、試験官があとで見直すためにもビデオ撮影しています。その点を留意して試験に臨みましょう。ただ、最初は違和感があるかもしれませんが、討議に集中するしかないので、気にならなくなります。
なお、グループ討議では、だいたい以下のような感じで配置になっています。
※黒丸が受験者のイメージ。試験官はビデオカメラの後ろ側にいます。
グループディスカッションの流れ
グループディスカッション(グループ討議)の進め方は、大まかに言って準備パートと討議パートの2つのパートに分かれます。
準備パートは、試験官から演習課題(=グループ討議の議題)に関する資料を渡され、その資料をもとにグループ討議で行われる課題の状況を把握したり、討議でどのような主張をするかなどを考える時間です。
演習課題の資料は、討議によりどのような結果が欲しいかの指示と討議のネタとなるデータが書かれています。また、実は多くの場合、準備パートで課題シートとともに自身が課題をどのように分析したかや議論をどのような主張ですすめるかをまとめる紙も一緒に配布されるのですが、これも採点対象です。準備パートは試験によって異なりますが、おおよそ10~30分程度で設定されています。
準備パートが終わると、討議パートに移ります。なお、討議パートに移る前に試験官からいくつかの注意事項が説明されます。注意事項は、討議時間や役割分担禁止、討議終了後のことなどです。注意事項の説明が終わったら、本番である討議が開始されます。グループ討議は必ず所定時間で終わり、あと少しで結論が出そうな状態だったとしても延長されることはありません。討議パートは試験によって変わってきますが、30~60分程度です。
討議が終わったあと、グループでまとめた結論や議論過程といったことを代表者が発表するケースがあります。
グループディスカッションの評価基準
グループディスカッション(グループ討議)での評価は、人材アセスメント試験での評価基準、評価科目に沿って行われます。この評価基準・科目は、会社ごとで特性が異なりますが、たいてい次の4つに分けられます。なお、評価基準は、人材アセスメント試験を開始する前に試験官より説明してもらえるでしょう。
- 個人特性
- 意思決定能力
- 対人関係能力
- 業務遂行能力
1つ目の個人特性は、議論に積極的に臨む姿勢である「積極性」や意見の対立や自身の意見が受け入れなくても苛立たない「ストレス耐性」、周囲から反対を受けても自身の意見を曲げない「自主独立性」などです。
2つめの意思決定能力とは、情報収集能力や課題発見能力、問題の分析能力、判断力などを評価します。意思決定能力に関しては、準備パートでまとめた紙に記載した内容も採点対象に含まれるために準備パートも気を抜かないようにしましょう。
3つめの対人関係能力とは、議論を活性化させるリーダーシップや他人の意見を受け入れていく柔軟性、メンバーの意見に耳を傾ける感受性、自身の考えを伝えるコミュニケーション力などを評価します。
4つ目の業務遂行能力では、グループディスカッションの手順を提案したり段取りしたりする計画性や課題で出てくる組織が持つ経営資源を効果的に利用した提案を出したかなどが評価基準です。
それぞれの評価基準でどのような行動が評価されるのか、悪いはNGとされるのかについては、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ読んでみてください。
グループディスカッションの種類と内容
まず、グループディスカッションは与えられた議題によって、以下の3つに分類できます。
- 問題解決型
- ミッション付与型
- ディベート型
以下でそれぞれについて、説明してきます。
問題解決型
問題解決型で行うことは、グループで議論して提示された資料にある問題の解決策を示すことです。
事例を示すと以下のようなものがあり、会社の業務でよく出てくる事例です。以下の事例では概要だけを書いてますが、これにデータなどが付随しており、そのデータなどを分析して解決策を討議メンバー全員で一つの解決先を導き出します。
【事例1】
あなたは営業部の部長である。先日、部下が会社の商品を勝手にネットオークションで販売したことが判明した。会社の商品はすでに販売停止して長く倉庫に放置していたもので、近日中に廃棄予定だったものである。このことについて、営業部としてどのように対応すればよいか。
【事例2】
新規事業の提案が三つ出てきた。この提案の中から一つの新規事業を選んでほしい。
【事例3】
周辺住民から社員の通勤時の振る舞いに苦情が来た。しかし、メンバーが見回りをしたり、社員にヒヤリングした限りでは問題行動が見つからなかった。この苦情に対して、今後、どのように対応していくか方針を決めてほしい。
なお、場合によっては、課題が一つだけ与えられるのではなく、複数の課題がまとめて提示されることがあります。その場合、複数の課題からどれを優先して進めるのかを決めることも評価対象です。この場合は、討議時間を少しでも効率的に使うようにするために、何らかの基準を定めて機械的に決めるように議論を誘導しましょう。(例えば、緊急性の高い低いとか、重要なのかどうかといった観点。)
ミッション付与型
ミッション付与型は、「選択型」とも呼ばれる場合もあります。ミッション付与型の特徴として、討議に参加するメンバーに個別の役割や課題が与えられることが挙げられます。このミッション付与型の肝は、必ず討議メンバーがぶつかり合うようにミッションが設定されていることです。
具体的な事例で示した方がわかりやすいと思いますので、以下に示しました。
【事例4】
「あなたは、新規事業を立ち上げるための特命チームに配属されている。特命チームには新規事業を考えるためのチームが複数あり、あなたはその中の一つのチームリーダーである。今回の会議では、チームリーダーたちによりそれぞれのチームで考えた新規事業案の中から一つの案を選んで経営職に提示してほしい。」
事例では、討議メンバーにチームリーダーという役割が与えられています。討議に参加する全員、自身のチームの新規事業案を採択してもらうミッションを果たすべく、討議を進めていくことになります。つまり、グループ討議では全員が敵という状態にもかかわらず、そのメンバーと話し合いを重ねて一つの提案を選び出さなければなりません。
なお、準備パートで配られる資料ですが、全員共通でもらうものと演習に参加しているメンバーが異なるものの2つに分かれます。上記の事例でいえば、共通部分には、会社の概要(経営方針や歴史など)や置かれている状況などが、メンバーが異なる部分は自身のチームが考えたデータが記載されています。
ディベート型
ディベート型は、2チームに分かれて一つのテーマについて議論する形式で、賛成 or 反対の立場あるいはA or Bの立場に分かれて討議します。どちらのテーマになるかやチーム分けは、あらかじめ試験官により決められているので、自分で選ぶことはできません。
ディベート型では、相手をいかに説得するかがキーポイントになります。そのため、普段の会議では、必要以上に相手を打ち負かすことはありませんが、昇格・昇進試験では勝敗が評価のカギになると考えて、ヒートアップしがちです。
一方で、討議終了後にはどちらの結論になったかを決めて試験官に報告しなれければなりません。必要以上にヒートアップさせずに、相手をいかに説得できるかの交渉術が必要になってきます。また、チーム内での意見をうまく集約させる手腕も必要になります。
なお、ディベート型は、部長職や経営職といった上級階級への昇格・昇進時に実施されることが多いです。
グループディスカッションを攻略するコツとは
ここまでグループディスカッション(グループ討議)の概略を説明してきました。では、どうやれば昇格・昇進試験で行うグループディスカッションで高評価を得ることができるのでしょうか。そのコツは以下の3つです。
- 討議に参加している全員が一致団結する
- 多数決を避ける
- 他の参加者の話をよく聴く
- 事前に自分の特徴を知っておく
では、以下でそれぞれを解説していきます。
討議に参加している全員が一致団結する
グループディスカッションで受験者がよく勘違いしてしまうのは、議論で勝つことが高評価につながると考えて討議の際に必要以上にほかのメンバーを敵視することです。たしかにグループ討議に参加するメンバーは昇格・昇進試験のライバルなので、その考えもあながち間違いではありません。
しかし、ここで考えてほしいのはグループディスカッションで出された課題が何かです。グループディスカッションで与えられる課題は、「討議メンバーが話し合い、とある課題に対して一つの回答を導き出すこと」です。自身の意見を採用させることではありません。つまり、最終的に全員で協力しあわなければ一つの回答を導き出せないので、グループディスカッションの課題をクリアできません。
ここでは、4つのコツを上げていましたが、全員が一致団結することができなければ、他のコツを実践することも容易ではないので、グループディスカッションでの高評価は見込めなくなるといっても過言ではありません。このコツの重要性はとくに肝に銘じて、グループディスカッションに臨みましょう。
多数決は避ける
ミッション付与型や問題解決型はメンバー全員で一つの結論を出す必要があります。その結論を出す際にやりがちなのが多数決です。たしかに会社の取締役会などでも多数決で大事な要件を決めているので、意見、問題ないように思えます。
しかし、そもそもビジネスの場では多数が賛成している内容が正解とは限りませんし、なにより、グループ討議でなぜその結論に至ったのかの根拠が試験官に明示できないので、多数決は避けましょう。
では、どうすればいいかというと、グループ討議を行う際にまず課題に対する評価項目及び評価基準をメンバーと話し合い、決めましょう。評価項目や評価基準を決めておけば、その後のグループ討議において、全員が何について話し合うのかが明確になり、いわばルールが整備されることになるために円滑に進みやすくなります。
評価項目はグループ討議の議題によって変わりますが、3~5個あげるとよいでしょう。また、評価基準は、3~5段階程度で数値化することで、良しあしが目に見えやすくなります。
他の参加者の話をよく聞く
グループディスカッションでは、自分の意見をとにかく声に出して主張することは大事ですが、他の方の意見を聞く姿勢も採点対象となっています。つまり、他の人に意見を許さないように討議を主導したり、他の人が話しているときに遮って発言したりすると良い評価はもらえません。
意見を聞く姿勢を採点官に分かりやすく見せる方法としては、相手が発言しているときは「しっかり体を向けてよく聞くこと」がおすすめです。相手が発言しているときに「そうですね」とか相づちしたり、ふんふんと首を振ったりすることも大事になってきます。
また、もし自身が議論を主導している状態ならば、発言が少ない人がいれば「何か意見がありますか」と問いかけてあげることも高評価につながります。相手の話をまとめることが得意な人は、相手が発言が終わったらすぐに要点を簡潔にまとめてあげるのもよいでしょう。
事前に自身の特徴を把握しておく
4つ目のコツが必要となる理由を説明する前に質問です。グループ討議に参加する際にどのような立場で臨むと高評価が得られると思いますか。
答えは、「自身の特徴を把握しておく」です。
もちろん、一般的に高評価につながりやいのは発言する機会が多くなる議論を主導するリーダーです。しかし、昇格・昇進試験では、社内の優秀な人が集まってきているので、グループ討議のリーダーとなるのはハードルが高くなります。また、普段の会議でやってもいないことをしようともしてもうまくいくはずはありません。
では、リーダーになれないとグループ討議で高評価を得られないのか。いえ、そんなことはなく、普段としていないことを無理に背伸びしてやろうとするのではなく、自身の長所を把握したうえでグループ討議内でその長所をしっかり試験官に見せつければよいのです。
グループ討議では何もリーダーだけが評価されるわけではなく、討議で煮詰まった時にその状況を打破できるアィデアを出すことも評価につなりますし、リーダーが気づいていない意見を拾い上げてあげることも評価ポイントです。このあたりは普段の仕事の議論でも思い当たるふしはある方が多いのではないでしょうか。
リーダー役に向いていないと思っている方は、自身の才能を嘆くのではなく、まずは上記のような長所を持っていないかを見つけましょう。そのためには普段の会議で、自身がどのようなポジションにいるかを把握しておく必要があります。自己分析だけでなく、普段の会議でどのような特徴を持って参加しているかを上司や同僚にヒヤリングしてみてもよいでしょう。
もし自身の長所を理解できたならば、昇格・昇進試験までの間にその長所を磨く努力をしてください。努力をすることで自信が付き、実際の試験の際に落ち着くことができます。
まとめ
ここまで、管理職の昇格・昇進試験で行うグループディスカッションがどのようなものか、攻略するコツはなにかについてを解説していきました。
管理職の昇格・昇進試験で行うグループ討議は、普段の会議での討論と同じ姿勢で臨んでしまうと、評価が悪くなる恐れがあります。まずは自身の特徴が何かをつかんだうえでしっかり試験用の対策を立てて臨みましょう。
グループディスカッションの攻略するコツが理解したけれども、どうやって対策すれば分からないという方は以下の二つの記事でグループディスカッションに関する勉強方法を紹介しています。ぜひご覧ください。